近年中国企業にまつわるM&Aが盛んになり、これをめぐって商務部への経営者集中申告や安全審査の申請が大きな話題を呼んでいるが、そんな中でも、契約締結の留意点といった視点からはほとんど検討がなされていない。本稿では有限責任公司の事例を念頭に置きながら、中国法から見たM&A契約実務の留意点をまとめるものとしたい。
1.前提条件、表明保証
英米のM&A契約実務では、前提条件、表明保証、誓約、クロージングなどの条項を設けることが常識となっているようであるが、中国ではこれらが馴染みのない概念であるゆえ、欧米の契約実務をそのまま中国で運用するには難しい面がある。特に、これらの条項を設けようとしても相手側の中国企業の理解を得られにくい場合があるほか、たとえこれらの条項を設けたとしても、記載内容の表現上の問題、裁判所の発想の違い、防御方法上の問題などにより、本来期待されていたとおりに機能しないケ……
劉新宇