―海事賠償責任制限基金の設立許可に関する審査基準―
前回は、最高人民法院の公布した15件目の指導性案例として、関連会社間の法人格混同にかかる法的責任が問題となった事例について論じたが、今回は、16件目の指導性案例であり、海事賠償責任制限基金の設立許可に関する審査基準が論点となった本件を検討するものとしたい。
1.背景
海事賠償責任の制限とは、海事事故が発生した場合において、その損害の賠償責任が一定の範囲内に制限されるという伝統的な海事法上の制度をいい、海運業者の利益を保護して海運業の発展を維持することを目的とするものである。国際的には、かかる海事賠償責任制限について「海上航行船舶の所有者等の責任の制限に関する国際条約」、「1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約」(以下、「1976年条約」という)によって規定されている。中国は、この1976年条約を批准していないものの、国内法である「中華人……
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劉新宇