1.はじめに
本件は、労災保険責任主体の認定に関する事例である。中国において、労災が発生した場合、通常労働者と労働契約を結んでいる事業者が労災保険責任主体として認定される。しかし、現実では、二重に労働契約を結んでいる労働者がいたり、労働契約に基づく労働関係が明白でなかったりすることもしばしば見受けられ、労働者が負傷したときに、労働関係を明確に確定できないケースもある。
本稿では、2014年8月に最高人民法院によって公表された4つの労災保険行政紛争事例のうち、労災保険責任主体の認定に関する1件を取り上げて検討することにしたい。 2.事実の概要 N建設会社(以下、「N社」という)は、上海市松江区で、某会社の工場建設プロジェクトを請け負った。その後、塗装工程について、「塗装請負契約」のもと、個人である李氏に請け負わせ、李氏の雇い入れた者がN社の管理を受け入れるものと約定した。李氏は、塗装……
劉新宇